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日本調剤における地域連携薬局
ならびに専門医療機関連携薬局の
認定取得に向けた取り組み
2022/05/09 10:00
日本調剤株式会社 薬剤本部 推進部
部長 光武 洋 先生
2021年8月1日より地域連携薬局(図1)と専門医療機関連携薬局(図2)という2つの認定薬局制度がスタートしました。いずれも『患者のための薬局ビジョン』(2015年10月厚生労働省)(図3)のかかりつけ薬剤師・薬局機能に対応するものです。認定取得のため準備や課題について、日本調剤株式会社 薬剤本部 推進部 部長の光武洋先生にお話を伺いました。
(出典:厚生労働省 全国厚生労働関係部局長会議 説明資料
(令和2年1月17日)より日本調剤にて改変)
(出典:厚生労働省 全国厚生労働関係部局長会議 説明資料
(令和2年1月17日)より日本調剤にて改変)
認定薬局制度の開始に向けた課題・準備
――地域連携薬局および専門医療機関連携薬局の認定薬局制度の開始に向けて、御社ではどのような課題や障害があったのでしょうか。また、それに対してどのような準備を行ない、解決に向けて取り組まれたのでしょうか。
組織としての課題や準備について
当社では、『患者のための薬局ビジョン』に沿って以前から取り組みを進めてきましたので、認定を取得するために新たな取り組みを行なったというよりは、必要な機能を備えている薬局について認定制度で順次評価をいただいているような状況です。テレフォンフォロー、継続的な薬剤服用管理、在宅医療への対応、トレーシングレポート(服薬情報提供書)の提出など、薬剤師一人一人に未来の形、めざすべき形を社内研修で説明してきましたので、開始に向けて特に大きな課題や障害はありませんでした。
どうすれば認定取得できるかではなく、なぜこれをやっていく必要があるのか、今、何が求められているのかが重要なポイントだと考え、ミーティングや研修を繰り返し行なうことで、マネージャー層から一般職まで全ての職員に直接話をする機会を設けてきました。
現場における準備や課題
地域連携薬局は中学校区(日常生活圏域)内に一つ以上あることが望ましいと言われており、無菌調剤やクリーンベンチに対応している薬局がない地域では、設備投資が必要でした。薬局が密集している大都市圏では1カ所に集約できますが、一つの薬局が広い範囲をカバーしなければならないような地方では各薬局単位、あるいは各地域単位でどのように設備を整えるのかが課題でした。地域連携薬局と専門医療機関連携薬局のいずれにおいても都道府県ごとの要件の違いをしっかり確認して取り組んでいます。
人材育成の課題
地域連携薬局、専門医療機関連携薬局に関する課題は要件を満たす薬剤師の育成です。特に専門医療機関連携薬局の要件である、がんに関しての専門性を有する薬剤師の育成は非常にハードルが高い部分となります。
当社では2015年から、金銭的・時間的なサポートも含め、各薬剤師が専門薬剤師認定を取得できる環境づくりを行なってきました。
初めて認定をめざす薬剤師は研修と勉強会を年中実施して知識を蓄えてもらいますし、元々経験のある薬剤師は知識のアップデートを中心に研修等を行なっています。
専門認定取得支援に限らず、日本調剤の薬剤師の研修体制は非常に充実しており、将来にわたって薬剤師が医療人として何を求められるのかをしっかり伝えつつ、トレーシングレポートやテレフォンフォロー、保険制度の知識など、足りない知識についてロールプレイも交えつつ研修・勉強会を進めています。
――トレーシングレポートを出す上での具体的な工夫はあるでしょうか。
まず1つ目は、病院や医師からヒアリングできるよう、連携を進めておくこと。2つ目は、薬剤師のヒアリングおよび情報の取捨選択に関するスキルアップです。提出する内容や書き方について、医師から「もっとこういうふうに要点を突いて書いてほしい」「こういう情報がほしかった」と、時にはお叱りを受けながら、あるいは褒められながら進めてきました。各薬剤師が勉強して努力するのと並行して、検査値なども含めてどういうものを書くのが望ましいのか会社として検証、研修を繰り返し、育成を続けてきました。
――3つの体制「情報共有の体制整備」「調剤および薬剤の販売業務の体制」「在宅医療の体制」に関してはどのような状況でしょうか?
取り組み① スムーズな「情報共有の体制整備」を強化
地域包括ケアシステムの中で活躍できる幅広い視野と見識を持った薬剤師を育成していくため、会社として仕組みを整えています。
情報共有の体制整備については、新型コロナウイルス感染症拡大後はリモートミーティングが主流となりました。現場の温度感は伝わりきらないかもしれませんが、薬局で働いている職員にとっては時間のロスなく参加できるようになったメリットもありました。経営層、管理職の声に加え、患者さまからの声も職員に直接届けやすくなるなど、これからの薬剤師の育成に非常に有効だと思います。
同様に、医師や病院薬剤師ともリモートでコミュニケーションが取れ、お互い無駄なく情報共有できるようになりました。
取り組み② バランスの取れた「調剤および薬剤の販売業務の体制」
調剤・薬剤販売の業務体制に関しては、薬局を継続して管理していくための課題もあります。長時間労働にならないよう職員の休みを担保した中で24時間365日の体制を維持するには、周辺の薬局との連携は欠かせません。1つの薬局で全てを完結することは非常に難しいので、地域連携薬局同士や地域連携薬局ではない周辺地域の薬局とのネットワークづくりが大切です。医療体制を維持しつつ、当番制などで互いに休みを確保しながらバランスを取って医療に貢献することが求められます。特に小規模な薬局では職員の生活を考え、仕事の負担や業務の負担感を軽減していくことが課題ですが、当社は店舗数も多いので周辺と協力しながら対応しています。
取り組み③ 専門部署を巻き込んだ「在宅医療の体制」
日本調剤の全店舗で在宅医療に対応する体制を整えているほか、在宅医療部という専門の部署を構え、高度な在宅医療、小児在宅医療、終末期医療に対応しています。また、無菌調剤の方法や介護保険制度に関しては在宅医療部のスタッフから各店舗の職員に教育してもらい、分からないことを気軽に質問できる体制を構築しています。
当社では入社して間もない頃から先輩に付いて在宅現場を回るので、薬剤師は皆、在宅医療に取り組むことは当たり前と捉えています。こうした取り組みを10年以上前から続けており、今回の認定制度において新たに課題として意識したというわけではありません。
地域連携薬局、
専門医療機関連携薬局の在り方、
今後の展望
――地域連携薬局、専門医療機関連携薬局の在り方や今後の御社の展望についてお聞かせください。
現状は統計上、多くの患者さまが立地や利便性によって薬局を選ぶ傾向にあります。認定制度が十分に周知されるまでは時間がかかるかもしれませんが、徐々に変化していくだろうと考えられます。
地域連携薬局に関する部分でいうと、在宅医療は30代、40代で必要になる方は多くありませんが、一定年齢以上で必要性が大きく高まります。在宅医療の必要性が無い段階から継続して同じ薬局、薬剤師が担当することにより、患者さまが安定した生活を営めるように、かかりつけ薬局、かかりつけ薬剤師の存在をしっかりとアピールしていく必要があります。地域毎で他の薬局との連携も必要になるので、地域連携薬局の展開をさらに進めていきたいと考えます。
専門医療機関連携薬局に関しては、オンライン服薬指導の普及により、場所など関係なく、例えば北海道のがん患者さまが九州にいる専門薬剤師の服薬指導を受けることも可能になります。つまり、自身の疾患に合った専門薬剤師を患者さま自らが選び、しっかりサポートを受ける、という世界になります。
『患者のための薬局ビジョン』では、2025年までに全ての薬局をかかりつけ薬局に、そして2035年には立地から離れて機能するという形を描いています。薬局機能を“見える化”していくことで医療の質を高め、個々の患者さまのニーズに合うような医療を提供できる体制が少しずつ構築されていくのではないかと思います。
認定を取得したからと言ってすぐに何かが変わることはないかもしれませんが、将来的に認定薬局の機能が必要になってきますので、日々、一歩一歩前進し、当社の薬剤師も含め、全国の薬剤師が患者さまのニーズを満たせるようになっていただきたいと私は願っています。
――本日は貴重なお話をありがとうございました。
取り組みのポイント
- 2015年から『患者のための薬局ビジョン』に沿って取り組みを推進。
- 都道府県ごとに要件の違いをしっかり確認し、地域によっては新たな設備投資も進めてきた。
- 地域連携では病院、医師にヒアリングを行ない、ニーズを把握した上で情報提供を実施。リモートミーティングを情報共有に活用し、時間を効率化。
- 24時間365日の調剤・薬剤販売の業務体制を維持しつつ、職員の長時間労働を防ぐため、地域連携薬局同士、それ以外の周辺地域薬局ともネットワークを構築し、連携している。
- 在宅医療専任の薬剤師で構成する在宅医療部を構え、がんなどの重篤な病気から難病の小児患者まで、地域のニーズに応じた幅広い在宅業務に対応。各店舗でも入社時から先輩と共に在宅現場を回り、経験を積む。
- 『患者のための薬局ビジョン』の実現に向け、現在は医療のサポートを必要としていない方も含めてすべての国民に対し、薬局機能の“見える化”を進めていく必要がある。