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2025/7/3 11:00
リフィル処方箋の普及、保険外併用療養費制度の対象拡大など盛る 骨太方針2025
政府は6月13日「経済財政運営と改革の基本方針2025」(骨太の方針2025)を閣議決定した。社会保障関係では、社会保障制度の持続性確保と現役世代の保険料負担を含む国民負担軽減のため、引き続き改革に取り組む姿勢を明示。医療提供体制では、新たな地域医療構想の推進や医師の偏在是正への対応などと並び、リフィル処方箋の普及・定着や保険外併用療養費制度の対象範囲拡大などの改革メニューを盛り込んだ。
医療提供体制について骨太方針は、「2040年頃を見据え、医療・介護の複合ニーズを抱える85歳以上人口の増大や現役世代の減少に対応できるよう、コロナ後の受診行動の変化を踏まえ、質が高く効率的な医療提供体制を全国で確保する」と明記した。
その実現のための具体策では、▽医療需要の変化を踏まえた病床数の適正化▽かかりつけ医機能の発揮される制度整備▽医療の機能分化・連携や医療・介護連携▽新たな地域医療構想について国が25年度中にガイドラインを策定▽医師の地域間・診療科間偏在の是正に関する総合的な対策パッケージの順次実施と効果検証▽高額療養費制度の見直しについて25年秋までに方針を決定―などと記載した。
低調なリフィル処方、長期処方で対応可能とする現場との間に意識のギャップ
リフィル処方箋の普及・定着や多剤重複投与、重複検査の適正化への取り組み方針も示した。このうち、リフィル処方箋についてはこれまでも普及のための様々な施策が実施されてきた。直近では24年度診療報酬改定時に「地域包括診療料・加算」や「生活習慣病管理料」などの算定要件にリフィル処方箋に対応できることの院内掲示を求める規定が追加された。
だが、厚生労働省が各年7月診療分のNDBデータを分析した結果をみると、全処方箋に占めるリフィル処方箋の割合は、
▽22年・0.04%▽23年・0.05%▽24年・0.07%―と、依然として低水準にとどまるのが現状。26年度の診療報酬改定に向けて次の一手が検討されることになるとみられ、財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会は5月にとりまとめた春の建議で、「特定の慢性疾患などにおいて継続的な状況確認が必要な場合でも薬剤師との連携によるリフィル処方箋が活用できるようにするための加減算を含む、診療報酬上の措置を検討すべき」と提言した。
こうした政府の強い思いとは裏腹に、現場の医師はそれほど必要性を感じていないこともリフィル処方箋が広まらない一因になっているようだ。24年度改定の検証調査では、リフィル処方箋発行経験がない医師の約6割がその理由について、「長期処方で対応可能だったから」と回答している。
保険給付範囲の縮小とセットで公的保険を補完する民間保険の開発を促進
また、骨太方針は保険外併用療養費制度の対象範囲拡大も打ち出した。24年度改定時には患者の希望で長期収載品を処方・調剤する場合の選定療養化が実施されている。保険給付範囲の縮小によって患者の経済的負担が増加することを考慮し、保険外診療部分を広くカバーし、公的保険を補完する民間保険の開発を促す方針も示した。
国民負担軽減と創薬イノベーションを両立する薬価上の評価を目指す
このほか、創薬力の基盤強化とともに、国民負担の軽減と創薬イノベーションを両立する薬価上の適切な評価や、医薬品の安定供給に向けた持続可能な流通の仕組みの検討、後発医薬品業界の再編―などに取り組むことも明記された。
創薬力の強化とイノベーションの推進における基本姿勢について骨太方針は、「医薬品業界の構造改革を進めるとともに、『健康・医療戦略』に基づき、創薬エコシステムの発展やヘルスケア市場の拡大、創薬力の基盤強化に向け、一体的に政策を実現する」と記載した。その具体策では、▽新規ファースト・イン・ヒューマン試験実施施設など、国際水準の治験・臨床試験実施体制の整備▽革新的医薬品等実用化支援基金の対象拡充を検討し、創薬シーズの実用化を支援▽国民負担の軽減と創薬イノベーションを両立する薬価上の適切な評価の実施―などを盛り込んだ。
このうち薬価上の評価については、「24・25年度薬価改定において新薬創出・適応外薬解消等促進加算の対象となる革新的新薬について薬価を基本的に維持することを念頭に置いた革新的新薬の特許期間中の対応に関する創薬イノベーション推進の観点からの検討等」をその具体例として注記した。
薬価制度の関連では、費用対効果評価制度にも言及。「イノベーションの推進や現役世代の保険料負担への配慮の観点から、客観的な検証を踏まえつつ、さらなる活用に向け、適切な評価方法、対象範囲や実施体制の検討と併せ、薬価制度上の活用や診療所の活用等の方策を検討する」と書き込んだ。
持続可能な流通の仕組みの検討や後発医薬品業界の再編を推進 安定供給確保策で
医薬品の安定供給を確保するための対応では、抗菌薬等のサプライチェーンの強靱化や取り巻く環境の変化を踏まえた持続可能な流通の仕組みの検討、少量多品目構造解消に向けた後発医薬品業界の再編―などに取り組む方針を明示。バイオシミラーについては、「29年度末までにバイオシミラーが80%以上を占める成分数が全体の成分数の60%以上」とする政府目標の達成を目指し、国内生産体制の整備や製造人材の育成・確保を着実に進め、使用を促進するとした。
地域フォーミュラリの普及を強く打ち出した点も、今回の骨太方針の大きな特徴となっている。自民・公明・日本維新の会の三党合意(6月11日)を踏まえたもので、持続可能な社会保障制度のための改革メニューの一つに地域フォーミュラリの全国展開を位置付けるとともに、医薬品関連の施策部分でも、「医薬品の適正使用や後発医薬品の使用促進のみならず、医薬品適正化の観点から、地域フォーミュラリを普及する」と重ねて記載した。
症状の安定している患者が定期的に服用する医薬品や、低侵襲性検体である穿刺血を用いる検査薬を含む医薬品・検査薬について、「さらなるスイッチOTC化など、具体的な工程表を策定した上でセルフケア・セルフメディケーションを推進しつつ、薬剤自己負担の見直しを検討する」とも明記した。
(2025年6月13日時点の情報に基づき作成)
参考情報
内閣府 経済財政運営と改革の基本方針2025
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