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がんが脂肪使って免疫から逃れる仕組み解明

AMEDが発表、大阪大の研究グループ

日本医療研究開発機構(AMED)はこのほど、大阪大医学部附属病院の村井大毅医員らの研究グループが、脂肪滴を蓄えた脂肪含有肝細胞がんが免疫疲弊を誘導し、抗腫瘍免疫から逃れることを見い出したと発表した。

 肝細胞がんは、再発率が高く世界的に予後不良ながんとして知られている。進行した肝細胞がんに対しては、抗PD-L1抗体/抗VEG抗体の複合免疫療法(アテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法)を中心に様々な薬物療法が実施されているが、その効果は限定的で、各薬剤の治療効果を予測できるバイオマーカーが求められている。しかし、これまでに肝細胞がんの複合免疫療法の治療効果を予測できるマーカーはなかった。

 村井医員と大阪大大学院医学系研究科の小玉尚宏助教、竹原徹郎教授(消化器内科学)らの研究グループは、近年急速に増加している非B非C型肝細胞がんに注目し、外科的切除を受けた113例の切除がん組織を用いてトランスクリプトーム解析とゲノム解析を実施。これらの情報に基づいて、がん免疫微小環境を解析し、臨床病理学的因子との関連を検討した結果、がん細胞に脂肪滴貯留を認める脂肪含有肝細胞がんでは、腫瘍内に強い免疫細胞浸潤を認める一方、浸潤した免疫細胞に疲弊が生じていることを発見した。

 また、空間的トランスクリプトーム解析で、脂肪含有肝細胞がんではM2マクロファージやがん関連線維芽細胞などが疲弊細胞傷害性T細胞の近くに存在し、腫瘍促進的な免疫微小環境を形成していることを見い出した。リピドミクス解析で、脂肪含有肝細胞がんでは飽和脂肪酸の一種のパルミチン酸が増加していることも同定した。

 さらに肝がん細胞株を使用した実験で、パルミチン酸が肝がん細胞の膜表面のPD-L1分子の発現を増加させることや、パルミチン酸を添加した肝がん細胞が共培養した線維芽細胞やマクロファージを腫瘍促進的な形質に変化させることを明らかにした。このほか、脂肪含有肝細胞がんはMRI画像で同定が可能であり、MRIで脂肪含有肝細胞がんと診断された患者は、アテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法の効果が良好となることを示した。

 MRI画像を用いた腫瘍内脂肪蓄積の定量化により、免疫チェックポイント阻害剤を含んだ複合免疫療法の治療効果が予測できる可能性があるという。研究成果は、米国科学誌「HEPATOLOGY」(オンライン)で公開された。

【執筆提供:株式会社CBホールディングス(CBnews)】
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